『作品集 『月の光』』
『作品集 『月の光』』
かつて
絵が詩を呼び、詩が音楽を呼んだ
芸術の連鎖にあこがれ
そのたすきの一端を
ぼくらなりに引き継ぐことができないだろうかという
思いからでした。
ただ、ヴェルレーヌの詩を直訳してみても
いまひとつ、その意味や情感が伝わってきません。
たとえば
ヴェルレーヌの詩の背景には
ベルガモ地方(イタリア北部)で
盛んであったとされる
職業的旅芸人集団「コメディア・デラルテ」
の存在があったとされるのですが
現代の日本に生きる我々からすると
「月の光の下
仮面をつけ
笛やリュートに合わせて踊る」
というシーンを実感として捉えるのは
やや困難であるように思うのです。
もちろん、直訳詩には直訳詩で
そこに自分の知らない世界や他者を感じ
結果、自分の世界をも広げてくれるような
独特の魅力があるとは思っています。
ただ、おそらくはドビュッシーも
ヴェルレーヌの詩をそのままなぞる以上の
想像力/創造力でもって
『月の光』を作曲したように
今を生きる我々も
過去の作品たちからインスピレーションを受けつつも
そこに今の自分たちを重ねられるような作品を
つくってみてはどうかと考えたのです。
それは
19世紀当時に
ヴェルレーヌがおそらく見たであろう景色を想像し
その絵を現代の絵へ
そして現代の言葉へと置き直していく道程であり
ドビュッシーの旋律に秘められた言葉を
創造的に読み取っていく挑戦でした。
それはまさに
「翻訳と創造のあいだ」
こうして、小谷ふみ作
『月の光』ができあがりました。
発行日:2015年5月4日
フランス語詩:ポール・ヴェルレーヌ
『艶なる宴』より
音楽譜 :クロード・ドビュッシー
『ベルガマスク組曲』より
日本語詩 :小谷ふみ
組版・印刷 :嘉瑞工房 高 岡 昌 生
小谷ふみ(こたに・ふみ)
1975年8月30日生まれ、西国分寺育ち。フェリス女学院大学英文学科卒業後、英語と日本語の先生業(専門は音声学)の傍ら、読み聞かせの詩や、随筆のような詩のような作品を書く。「青い自転車の夢」が、第14回読売新聞こども未来賞入賞。
好きなものは、黒糖わらびもち、お天気雨、文房具、黒猫、大学芋、地球の輪郭、鶏料理、てんとう虫、りんご、フルート、大きな彼の字、小さな彼の前歯、大人になってはじめたバイオリン、ペットのヘルマンリクガメと菜食。